ジャンルを問わず「人気商品」には、人気を博すだけの理由=良いところが必ずあるものです。そしてそれは「車」においても同様で、大ヒットしている車にはほぼ必ず、ヒットするだけの理由=美点があります。
このコーナーでは「今、かなり売れてる車」1車種をピックアップし、その「売れてる理由」を明らかにしてまいります。
第1回となる今回は、2019年11月から販売されているトヨタのコンパクトSUV「トヨタ ライズ」です。
2020年に一番売れたクルマはヤリスではなくライズだ
まずはトヨタ ライズという車についての簡単なおさらいから。
トヨタ ライズは、全長4mを切るコンパクトなサイズでありながら広々とした室内空間と、充実した運転支援システムを備える小ぶりなSUV。「ダイハツ ロッキー」とは姉妹車の関係で、搭載エンジンは1Lの直3ガソリンターボ。これはなかなか活発なエンジンなのですが、WLTCモード燃費は18.6km/Lと、省燃費性能も優れています。
そんなトヨタ ライズは2019年11月に発売されるやいなや大人気となり、2020年の販売台数は「トヨタ ヤリス」に次ぐ第2位となりました。
しかし1位のヤリスの台数には、年の途中に発売された「ヤリスクロス」と「GRヤリス」の台数も合算されています。
ということでヤリスクロスとGRヤリスの台数を差し引いてみると、実は「2020年によく売れた車第1位」はトヨタ ヤリスではなく、今回ご紹介する「トヨタ ライズ」だったことがわかります。そしてライズは今年2021年1~3月にかけても、TOP10圏外になることなく堅調に売れ続けています。
最近のユーザーが求めるものをほぼカバーしている
とはいえトヨタ ライズという車は、用意されているパワーユニット(動力源)は1Lターボエンジンのみで、他の人気車のように「ハイブリッド」を選ぶことはできません。そしてグレード数が少ないという(4種類しかありません)、販売の面では不利な点も抱えているのに、なぜ、こんなにも売れるのでしょうか?
その理由は、「最近のユーザーが車に求めるさまざまなモノを、これ1台でほぼカバーできているから」にほかなりません。
最近のユーザーが求めるモノとは、まず第一に「SUVであること」です。
大昔は「車といえばセダン」という感じでしたが、その後は、子どもに車の絵を描かせるとたいてい四角いミニバンらしきものの絵を描くようになるほど、3列シートのミニバンが人気となりました。
そんなミニバンは今でも人気が高いジャンルですが、最近はそれを上回る勢いで「SUV」が支持を集めているのです(現在、小型/普通乗用車に占めるSUVの比率は約25%に達しています)。
ありそうでない5ナンバーサイズの人気SUV
そしてトヨタ ライズは、人気のSUVの中でも希少な「5ナンバーサイズ」でもあります。
5ナンバーサイズというのは「全長4700mm以下、全幅1700mm以下、全高2000mm以下」のことで、なおかつ排気量2L以下である小型乗用車のことを意味します。
5ナンバーサイズの車というのは、大柄な3ナンバーサイズの車と比べて「税金が安い」というメリットがあり、なおかつ東京などの狭い道路でも「取り回しがラク」という大きなメリットがあります。
そしてトヨタのヤリスやホンダ フィット、日産 ノート等々の「今売れてる5ナンバー車」というのはけっこう多いのですが、「5ナンバーサイズで、なおかつ人気のSUVで」という車は少ないというかレアなのです。これが、トヨタ ライズが人気を集めている2番目の理由です。
背の高さが生み出す室内のゆとり、運転しやすい視界の良さ
そして5ナンバーサイズの車は、小ぶりであるため「取り回しがラク」「税金が安い」というメリットはあるのですが、だからといって車内がかなり狭かったなら、誰も買いたいとは思わないでしょう。
しかしトヨタ ライズの車内スペースは、決して狭くはありません。いや5ナンバーサイズですので「広い!」というほどではないのですが、普通のコンパクトカーと違って背が高いSUVですから、室内高もそこそこ高く、後席にも大人2名が余裕をもって(というか圧迫感を感じずに)座ることができます。
そして背が高めであるということは「運転席からの視界も良好である」ということで、なおかつライズはやや四角四面なフォルムをあえて採用していますので、高めの着座位置からボディの四隅や車の後方をよく見ることができます。
つまりそれは「狭い道などでも運転がしやすい」ということです。
これが、トヨタ ライズが売れている3番目の理由であると考えられます。
走りもなかなか優秀、安全装備も充実している
しかしながら、いくら「SUVで」「5ナンバーサイズで」「車両感覚がつかみやすい(運転席からの見晴らしが良い)」としても、走行性能がイマイチだと、人はすぐに嫌になってしまいます。走り屋のように飛ばす人は今どきいないでしょうが、それでも「上り坂でもストレスなく加速し、カーブでは安心感をもって気持ちよくシュッと曲がれる」というのは、ファミリーカーにとっても重要な性能のひとつです。
そしてその点でも、トヨタ ライズはなかなか優秀です。
エンジンの排気量はたったの1Lですが、ターボが付いていますので十分パワフルであり、気持ちよく吹け上がります。そしてダイハツのいちばん新しい車両骨格が採用されているおかげで、カーブなどでの安定感も上々。
さらには、最廉価グレードである「X」以外は安全運転支援システム「スマートアシスト」が標準装備なので、「危険を予防しながら走ること」も得意としているのが、トヨタ ライズという車です。これが、この車が人気を集めている4番目の理由でしょう。
SUVとしては破格のコンパクトカー並み価格設定
とはいえそんな優秀な車も、もしも車両価格が高すぎたら、さほどの支持は得られないでしょう。
しかしトヨタ ライズは、予防安全パッケージの「スマートアシスト」と16インチのアルミホイール、デジタル化されたメーターまわりなどの充実した装備が付く中間グレードの「G」でも、SUVとしては破格に安いコンパクトカー並みの価格、具体的には189万5000円なのです。
この「存在感はSUVなのに、価格はコンパクトカー並みである」というのが、ライズが売れている5番目の理由です。
売れるべくして売れた、素晴らしい実用車
そしてもちろんこのほかに「カタチがいい」とか「色がカワイイ」などの理由もあるとは思いますが、根本的にはここまで挙げてきた5つの理由、つまり、
●人気の「SUV」である。
●取り回しが良くて税金も安い5ナンバー車である。
●それでいて車内は決して狭くない。ボディの見切りもいい。
●走りが気持ち良く、安全装備も充実している。
●それでいて、けっこう安い。
というのが、「トヨタ ライズのヒットの理由」だと言えるでしょう。まさに売れるべくして売れた、素晴らしい実用車です。
ボディサイズの面で「我が家には不向きだ」という人はいらっしゃるでしょう。しかしそうでないならば、つまり大人数の乗員や大量の荷物などを載せる予定は特にないのであれば――トヨタ ライズは大いに注目に値する一台です。
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執筆者
伊達軍曹 - 外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。自動車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。以来、有名メディア多数で新車および中古車の取材記事を執筆している。愛猫家。
- <公開日>2021年7月1日
- <更新日>2021年7月1日