ご家庭にお子さんが1人――という場合には不要な場合も多いでしょうが、お子さんが2人となった場合には、「ミドルサイズのミニバン」は最強に近い選択肢となります。
大きすぎず小さすぎずなボディサイズですが、車内は家族全員がゆったり過ごせる空間が確保されていて、3列目をたたんでしまえばたくさんの荷物も収容でき、スライドドアなので「子どもが隣の車にドアパンチをしてしまうリスクもない」ということで、“家族の車”としては大変に便利な存在なわけです。
【目次】
新型セレナはミドルサイズミニバン特有の“弱点”を克服した?
しかしそんなミドルサイズのミニバンにも、筆者が考えるところによれば2つの弱点があります。
ひとつは、「デザイン的にパッとしない車種も多い」ということで、もうひとつが「運転があまり楽しくない車種も多い」ということです。
前述したとおりミドルサイズのミニバンは基本的に“家族の車”ですから、「デザインとかハンドリングとかはどうでもいいよ! 決して最優先事項ではないんだよ!」という意見もあるでしょう。
それはもちろんそのとおりです。
しかし、せっかくそこそこ以上のお金を出して入手して、ドライバーはそれなり以上の時間、ハンドルを握ることになるのですから、「実用性や居住性等が良好であるのに加えて、デザインと乗り味も良好である」というほうが、よりイイに決まってます。
とはいえ、そういったミドルサイズミニバンはなかなか存在しないのが悩みの種だったのですが、このたび、まさにそういった感じのミニバンが、つまり「実用性や居住性等が良好であるのに加えて、デザインと乗り味も良好である」というミドルサイズのミニバンが登場しました。
2023年4月20日に発売された新型日産 セレナe-POWERです。
新型日産 セレナe-POWER。写真のボディカラーはターコイズブルー/スーパーブラック。
ミニバンとしての基本部分は当然ながらクラストップ水準
日産 セレナは、その初代モデルは1991年に誕生した中型サイズの3列シート車。「BIG(広々とした空間)」「EASY(気軽に安心して運転できる)」「FUN(楽しく使える)」をキーワードに開発されてきた歴代セレナは、どれも日本の家族に愛され、着実に販売台数を伸ばしてきました。
その6代目としてガソリンエンジン車は2022年12月に、「e-POWER」というハイブリッド車は2023年4月20日に発売されたのが、今回激推しする新型セレナです。
写真のボディカラーは現在3番人気の「プリズムホワイト/スーパーブラック」。
デザインや走りうんぬん以前の「ミニバンとしての基本部分」は、新型においてはもちろんかなりブラッシュアップされました。
有効室内長2720mmというのはクラストップレベルであり、3列目シートを前後にスライドできるというのも、このクラスでは新型セレナだけ。シート表皮はけっこうな高級感があるのですが、食べこぼしやゴミなどが隙間に入り込みにくく、飲み物などをこぼしてしまった際にもふき取りやすいという機能性も両立されています。
また全席にスマホなどを置ける小物入れが設定され、500mlの紙パックが入るドリンクホルダーやUSB電源ソケットも、1列目から3列目までに用意されています。ちなみに3列目シートの後端からバックドアまでの荷室長が342.3~462.3mmであるというのも、クラストップの数値です。
そのほかでは、さまざまな運転支援システムがセットになった「プロパイロット」は全車標準装備で、上級グレードにはボタン一発で勝手に駐車枠に駐車してくれる「プロパイロット パーキング」も用意。また、スライドドアの下に足を入れると勝手にドアが開くという「ハンズフリーオートスライドドア」も、最廉価グレードを除いて標準装備です。
車内はおおむねこのような感じ。3列目シートは身長175cm級の成人でもまあまあ普通に座ることができる。
しかし「使い勝手がいい」というのは他社製ミニバンもおおむね同様?
以上のとおり、ミドルサイズミニバンとしての使い勝手や車内の広さについては申し分がない新型日産 セレナですが、実は「使い勝手の面で申し分ない」というのは、その他の新世代中型ミニバンであってもおおむね同様です。
「おおむね5ナンバーサイズ」という枠のなかで各社が最善を尽くした結果、ミドルサイズのミニバンは今、どのメーカーのどれを買っても「使い勝手が悪い」「車内が狭く感じる」などということはありません。どれも本当に便利であり、広く使えて、細かいところまでいちいち気が利いています。
そのうえで、新型日産セレナは「それでも他社製のモノよりも若干広く、若干使い勝手に優れる」という仕上がりになっているわけですが、それは“若干”であり、決して“大差”ではありません。
しかしそんななかでも、筆者が冒頭付近で申し上げた「デザインが良い」「運転が楽しい」という部分において、新型日産 セレナe-POWERは同クラスの他社製ミニバンに大きな差をつけているように思えます。
所帯じみた感じはなく、気取りすぎてるニュアンスもない。デザインはちょうどいい塩梅!
まずは新型セレナのデザインについて見てみましょう。
従来型のセレナは、例えば日産のアイデンティティである「Vモーショングリル」というフロントマスク部分のV字型の造形を、メッキモールにて表現していました。それはそれでまぁ悪くはなかったと思いますが、正直さほどしゃれたデザインでもありませんでした。
しかし新型は、縦3連に配されたLEDヘッドランプとグリルのカラーによって、さりげなくVモーションを表現。非常に抑制が利いたハイセンスな表現であり、このクラスのミニバンでありがちな「所帯じみた感じ」は微塵もありません。
「Vモーション」は従来型よりも抑制的に表現されている。写真は「フロントダイナミックパック」装着車。
そしてインテリアも、運転席まわりは12.3インチサイズのメーターパネルと統合型インターフェイスディスプレイが組み合わされた横長のインパネがしゃれており、日産としては初めてのスイッチタイプの電制シフトセレクターを採用した操作パネル部分は、ちょっと「iPhone」を感じさせるかのようなスッキリ系デザイン。ここにも所帯じみた感じはありませんが、かといって「気取りすぎてる」みたいなニュアンスもない、きわめてちょうどいい塩梅です。
スッキリしたデザインとなる新型セレナの運転席まわり。ギアチェンジはレバーではなく、パネル上に配置されたボタンで行う。
走りは高級スポーツカーの如し。つまり、速くて快適!
そのほか、ちょっと前述したシート表皮のおしゃれ感もなかなかステキなのですが、それ以上にステキなのが、新型日産 セレナe-POWERの走行フィールです。
結論から申し上げると、新型日産 セレナe-POWERの走行フィールはまるで高級スポーツカーのよう――というとちょっとホメ過ぎですが、しかしそういったニュアンスを多分に含む、非常に快適でありながらもスポーティなものです。
パワーユニットは日産が「e-POWER」と呼んでいるシリーズハイブリッド。エンジンは発電に徹し、エンジンが作った電気によって動くモーターが車を駆動させます。
で、今回の新型から1.4Lエンジンは「e-POWER専用エンジン」に刷新され、出力は16%アップ。そして駆動用モーターの出力も従来型から20%向上しました。そういったパワーアップ策に加えて、新型エンジンは静粛性がかなり向上し、エンジンが作動する頻度も低くなり、さらには車体のほうの遮音性能も格段に向上したため、走行中の新型セレナe-POWERの車内はちょっとした高級セダン並みに静かです。
そのうえで高剛性サスペンションがおだやかなロール特性(カーブで車が急激には傾かない特性)を実現させ、ハンドリング性能もより正確なものになりました。ミニバンですが、カーブでは狙ったラインをほぼそのまま走り抜けることができます。
で、新設計のシートが車の揺れをいなすことで頭部への揺れを伝わりにくくし、箱型のミニバンがどうしても苦手とする横風も、新設された「エアカーテン」が空気の流れを整えますので、結果としてふらつきは最小限になります。
ほかにもいろいろあるのですが、主にはこれらの要素が新型セレナe-POWERの走りの「高級感」「快適さ」を形作っています。そしてそこに、前述した「より高出力となったe-POWERシステム」が加わることで、筆者が言う「まるで高級スポーツカーのような、快適だがシュアでパワフルな走行フィール」が完成するわけです。それでいて燃費はまずまず良好で、WLTCモード燃費は18.4~20.6km/Lです。
価格も最新のハイブリッドミニバンとしては標準的!
いやはや本当に、今回の新型日産 セレナe-POWERの出来には度肝を抜かれました。
「ミドルサイズのミニバンは便利でさえあってくれればいい。その他の点にはこだわらない」という人には、あまり向かないかもしれません。しかし「便利なミニバンで、なおかつデザインも走行フィールも良いモノであってほしい」と願う人にとっては、現時点ではおそらく最高のミドルサイズミニバンなのではないかと、筆者は思います。
オリックスカーリースの「いまのりナイン」での月額リース料金は4万5670円~となっている。決して安い車ではありませんが、最近のハイブリッドミニバンとしては「高すぎる」ということはぜんぜんなく、おおむね標準的なプライスです。
しかし新型日産 セレナe-POWERで得られる喜びはまったく標準的ではなく、むしろ驚異的であると言ってもいいでしょう。
「家族」も「走り」も大切にしたいと考えるすべてのドライバーに、おすすめします。
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執筆者
伊達軍曹 - 外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。自動車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。以来、有名メディア多数で新車および中古車の取材記事を執筆している。愛猫家。
- <公開日>2023年7月10日
- <更新日>2023年7月10日