国産車の頂点に君臨するクルマは何か。やっぱりトヨタの最高級セダン、センチュリーなのか。
確かにセンチュリーは、価格的にもメカニズム的にも作り込み的にも、圧倒的な頂点だ。あの乗り心地はまさに異次元。はっきり言って、ロールスロイスの最高級セダン「ファントム」よりも、低速域での乗り心地は勝っている。
しかし、昨年の公用車騒動を見ても、過剰に高級すぎるという批判を受けやすいし、どこか御料車のようで、あまりにも浮世離れしている。
結果、「センチュリーの新車が欲しい!」と思っている人は、ほんのわずかではないだろうか。センチュリーの販売台数は、今年1~6月でわずか16台。月に3台も売れていない激レア車だ。
センチュリー公用車議論たけなわの頃、コメンテーターが、テレビで注目すべき発言をしていた。それは、「僕が知事ならワゴンタイプにしますね。車内で会議もできるし、合理的じゃないですか」という内容だった。
ワゴンタイプとは、ミニバンあるいはワンボックスを指すと思われる。具体的な車名は挙げなかったが、その最有力候補となるのは、トヨタ アルファードだろう。
こちらがトヨタ センチュリー。5L V8ハイブリッドを搭載する「VIPのための車」。
こちらは今回の主役であるトヨタ アルファード。
「エラソーな車」なのに後ろ指を差されない理由とは?
アルファードは、ミニバンタイプの頂点に君臨するクルマである。中でも「エクゼクティブラウンジ」系は、そのゴージャスな内装から、芸能人や経営者などのセレブ需要も旺盛。宮内庁も使っているので、天皇皇后両陛下が乗られることもある。
それでいて、誰が乗っても後ろ指指されることはない。センチュリーやレクサスLSだと「豪華すぎる」と言われる可能性があるが、なぜかアルファードだと問題にならない。いったいなぜか。
もちろん、アルファードのほうが価格的にぐっと安いのもあるが、それに加えてアルファードは、「下剋上のクルマ」だからではないだろうか。
最上級グレードである「エグゼクティブラウンジS」の室内はこのようなイメージ。
ワゴンタイプというのは、もともと「荷物を運ぶためクルマ」という意味だ。30年以上前、ご病気の昭和天皇が乗られる際は、「ワゴンタイプに陛下をお乗せするのはどうなのか」という真剣な議論があったとも聞く。
アルファードも、もともとはセレブ向けではなく、ファミリー向けだった。そして代を経るにしたがってデザインが過激にオラオラ化し、ヤンキー層に絶大な人気を誇るようになった。
つまり、ヤンキーの頂点から、御料車にまでのし上がったクルマなのだ。だから、誰もアルファードを「豪華すぎる」とは批判しない……ような気がする。
人気も高いが「リセールバリュー」も高い!
そんなアルファードは、現行モデルが登場してすでに6年を経ている。にもかかわらず、販売台数は続伸を続け、このところは月に1万台を超えることもしばしばだ。
今年1~6月の販売台数は、5万6785台。わずか16台のセンチュリーと比べるべくもなし。アルファードの瞬殺である。
これほどの人気を保ちながら、陛下も乗られるアルファードこそ、日本の頂点に君臨しつつ、誰からも(?)愛される高級車なのではないだろうか。
アルファードの販売がなぜここまで伸びているのか。その裏には、アルファード人気の爆発的な盛り上がりによって、アルファードの下取り価格もまた爆発的に上昇しているという事実がある。
下取りが高ければ、残価設定ローンでもリースでも、月々の支払額を低く抑えることができる。つまり安く乗れる。
残価設定ローンの場合、アルファードの5年後の残価は、おおむね50%。30%の車に比べれば、その有利さは言うまでもない。
トヨタの売れ筋ミニバンと言えばノア/ヴォクシー/エスクァイアだが、それらと比べても、支払い額は大差なくなる。それもあって、アルファードの販売台数は加速を続けているのだ。
リセールバリューが非常に高いというのも、アルファードが圧倒的な人気を誇る理由か? 写真はエグゼクティブラウンジSの運転席まわり。
では、リースではどうなのか。オリックスカーリースでトヨタの車種一覧を表示させれば一目瞭然だ。
●ノア(2WDハイブリッドX7人乗り)|5万7750円
●アルファード(2WD S 8人乗り2500ccガソリン)|8万1400円
(ともに「いまのりくん5年契約」の場合の月々支払額)
その差2万3650円。大きいと言えば大きいが、なにしろ車格感が大きく違う。ノアはごく普通のミニバンだが、アルファードは天皇皇后両陛下も乗られるクルマ。人の見る目はまったく違うし、室内のゴージャス感にも大差がある。
初期モデルの走りは正直今ひとつだったが
では、そのアルファード、実際に乗るとどうなのか。
実はアルファードの登場当初は、少なくとも走りに関しては、いい印象はなかった。
大型ミニバンの宿命で、ボディ剛性は高いとは言えないので、路面の凹凸でボディがねじれるような感覚があり、時としてそれが「ドスン」というショックになる。
室内はゴージャスで安楽そのものと思いきや、たとえば駐車場に入るとき、車道と歩道との段差を斜めに乗り越えると、車高の高さゆえ、乗員は大きな横揺れにさらされ、快適とは言えない。センチュリーなら、そんな横揺れすら快感にしてしまうほどの、別次元の乗り心地である。
加速も物足りなかった。ミニバンの王者だけに、車両重量は約2トン。パワーユニットは、2.5Lガソリン/2.5Lハイブリッド/3.5Lガソリンの3種類だが、2.5Lガソリンはもちろんのこと、2.5Lハイブリッドでもやや力不足。3.5Lガソリンで、ようやく王者らしい余裕が少し味わえる、という感覚だった。
走りの質感が改善されたことで「ほぼ無敵」となった
が、先日、久しぶりにアルファードに試乗して、さまざまな部分が改良されているように感じて、見る目を変えた。
まず乗り心地。登場当時と比べると、どう考えても快適になっている。トヨタ側からサスペンションの変更があったというリリースはいっさいないが、なぜかピタッと路面に張り付くように走り、段差を乗り越えた時のショックも小さくなっていた。
試乗したのは、2.5Lハイブリッドモデルだったが、以前の印象と異なって、それなりに十分な加速力を発揮してくれた。元気に走りたければATのセレクトレバーを「S」にすれば、アクセルだけでほぼ思いどおりの加減速が楽しめた。こちらも、何も変更されていないことになっているのだが、実に不思議である。
クルマは大量生産商品ゆえ、すべて同じ品質かと思ってしまうが、実は微妙なばらつきがある。生産時期によってもそれは同様。発表されないような小さな改良が積み重なって、印象が良くなった可能性はゼロではない。
これまで私は、アルファードというクルマを、見た目はオラオラだけど走りはちっともオラオラじゃないクルマと考えていたが、現在のアルファードは、決してそんなことはなく、走りも十分オラオラ! もはや無敵である。
もちろん、ここまで大きなミニバンが必要かどうかは、じっくり考える必要があるが、人はそれほど合理的な動物じゃない。やっぱり頂点に憧れる。ノアでは決して得られない満足感が、アルファードにはあるはずだ。
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2021年9月1日
- <更新日>2021年9月1日