軽自動車の世界では相変わらず「軽スーパーハイトワゴン」が大人気となっています。とっても背が高く、なおかつ便利なスライドドアを採用している軽スーパーハイトワゴンは便利な乗り物ですが、欠点がないわけではありません。
まず背がちょっと高すぎるため、走行安定性に若干欠ける部分はあります。もちろん、最新世代の軽スーパーハイトワゴンは技術革新により「かなり安定した状態で走れる車」へと変貌しています。しかしそれでも、一般的な背丈の車と比べれば、若干の不安感や「カーブでのグラグラ感」はどうしても伴うものです。
そして「どうしても値段が高めになる」という身もふたもない問題点と、「背が高いほうが便利なのは確かだけど、あそこまで背が高くなくても……」という思いも、人によっては抱くでしょう。
軽スーパーハイトワゴンのそういった難点というか、「ちょっと過剰であること」を良しとしない人におすすめしたいのは「軽ハイトワゴン」というカテゴリーです。
「スーパー」という文字が付かない軽ハイトワゴンは、文字どおり「背がスーパー高いわけではないが、普通よりやや背が高い軽自動車」のこと。具体的には、「スーパー」がつくほうの全高が1790mmぐらいであるのに対し、スーパーが付かない「ハイト」のほうは1650mmぐらいです。
ダイハツ ムーヴキャンバスとスズキ ワゴンRスマイルはハイトワゴンながらスライドドアを装備していますが、このクラスの主流は後部ドアが普通のヒンジドアタイプ。背が高すぎないことと構造的に軽いヒンジドアゆえに、走行中の姿勢も安定していて安心感があります。気になる頭上空間ですが、実はコンパクトカーよりも大半のハイトワゴンの方が広いのです。そして車両価格がそんなに高額にはならないというメリットも見逃せません。
もちろん「我が家はどうしても軽スーパーハイトワゴンの背の高さとスライドドアが必要なんだ!」という方もいらっしゃるでしょう。当然ながらそれはそれでいいのですが、もしもあなたが「そこまでの背の高さは不要かな」と感じているのであれば、世間のムードに流されて軽スーパーハイトワゴンだけを探すのではなく、扱いやすくてお手頃価格な「軽ハイトワゴン」にも注目してみるべきです。
ということで今回は、今回は2021年10月の販売台数ランキングを眺めつつ、「今イチ推しの軽ハイトワゴン」について検討してみます。
超売れ筋は軽スーパーハイトワゴンだが、軽ハイトワゴンも根強い!
まずは2021年10月の軽自動車販売台数ランキング ベスト15を見てみましょう。
1位 スズキ ワゴンR|8808台
2位 日産 ルークス|8696台
3位 ホンダ N-BOX|7442台
4位 スズキ スペーシア|6319台
5位 スズキ ハスラー|5416台
6位 日産 デイズ|5035台
7位 ダイハツ タフト|4926台
8位 ダイハツ タント|4771台
9位 ダイハツ ミラ|4520台
10位 ホンダ N-WGN|4396台
11位 スズキ アルト|3890台
12位 ダイハツ ムーヴ|3336台
13位 三菱 eK|2511台
14位 スズキ ジムニー|1994台
15位 スズキ エブリイワゴン|1298台
赤く印したのが軽ハイトワゴンで、青字が軽スーパーハイトワゴン、黒字がその他タイプの軽自動車です。
こうして見ると軽スーパーハイトワゴンの人気が高いことがわかりますが、それと同時に軽ハイトワゴンも「しっかり売れてる」ということがよくわかります。スズキの伝統的な軽ハイトワゴンであるワゴンRは新車種のワゴンRスマイルが台数に含まれることもあって見事1位を獲得。ここ最近、半導体を始めとした部品不足でランキングの動きが大きいとはいえ前月も3位に入っています。
それでは以降、販売台数ランキング順におすすめの軽ハイトワゴンを個別に見てまいりましょう。
1位 スズキ ワゴンR(109万9800~177万6500円)
個性が異なる3つのデザインで売れ続ける元祖軽ハイトワゴン
写真は「ハイブリッドFZ」。
スズキ ワゴンRは、1993年に初代モデルが発売された元祖軽ハイトワゴン。当時の軽自動車は背の低いセダン系が主流で、背が高いモデルは商用ワンボックスをベースとしたものしかありませんでした。そんな時代に「完全乗用車設計の背が高い軽自動車」として登場し、革命を起こしたのがスズキ ワゴンRです。
現在販売されているのは2017年に登場した6代目で、スズキの新世代プラットフォーム「ハーテクト」を採用。それによりおよそ20kgの軽量化に成功したことと、クリープ走行時などに最長10秒の電動走行が可能なマイルドハイブリッド機構を採用したことで、軽快にしてシュアな走りが実現されています。そして燃費もWLTCモードで23.2~25.2km/Lという良好な数字をマークしています。
6代目ワゴンRは、イメージの異なる全3種類のデザインを用意したことも大きな特徴です。
「FA」と「ハイブリッドFX」は四角をモチーフとした端正なフロントマスクで、「ハイブリッドFZ」には横基グリルとヘッドランプを上下分割したスポーティなフロントマスクを採用。そして「ワゴンRスティングレー」には、メッキ加飾とブラックパール塗装のフロントグリル、縦型のLEDヘッドランプなどで存在感を強調したフロントマスクを採用しています。
「FA」と「ハイブリッドFX」に採用されるシンプルなフロントマスク。
「スティングレー」のフロントマスクはこのようなアグレッシブ系。
2019年12月には前後の衝突被害軽減ブレーキと後方誤発進抑制機能、リアパーキングセンサーをCVT車に標準装備し、自然吸気エンジン搭載車のパワートレインを新型ハスラーと同じ新開発エンジン+新開発CVTに変更するなど、その商品力を地味に鍛え続けています。
軽スーパーハイトワゴンのような華やかなイメージはないかもしれませんが、普通以上に便利に使えて、走りの安定感も高く、そして燃費の面でも車両価格の点でもお財布にやさしい――という、今なお売れ続けている理由がよくわかる一台であるといえます。
6位 日産 デイズ(132万7700~191万5100円)13位 三菱eK(132万5500~168万8500円)日産と三菱の共同プロジェクトで誕生。乗り味の良さはこれがNo.1か?
写真奥側が日産 デイズで、手前が日産 デイズ ハイウェイスター。
日産 デイズは2013年に初代モデルが誕生した、三菱と日産の共同プロジェクトから生まれた軽ハイトワゴン。初代デイズは三菱が開発も生産も担当したのですが、2019年3月に登場した2代目(現行型)は、日産が企画と開発を担当しました。今回のランキングで13位に入っている「三菱 eK」は、2代目日産 デイズの三菱版であり、デザインなどは異なるものの、車としての中身は同一です。
こちらがデイズの三菱版である三菱 eKワゴン。
で、初代の開発を担当した三菱のことを悪く言うわけでは決してないのですが、日産が企画と開発を担当した2代目デイズ/eKは非常に素晴らしい乗り味の軽ハイトワゴンに生まれ変わりました。
新開発されたプラットフォームはきわめて堅牢で、走行中に感じる車台とボディの剛性感は「軽自動車の域を超えている!」と感じるほかなく、同じく新開発されたエンジンも、ノンターボのほうであっても十分以上のパワー&トルクを実用回転域で発生します。
タイプは大きく分けて、おとなしめな顔つきの「スタンダード」と、アグレッシブな「ハイウェイスター」の2種類。スタンダードにはノンターボエンジンが搭載され、ハイウェイスターにはノンターボエンジンにECOモーターを組み合わせた「スマートシンプルハイブリッド」と、同システムのエンジンをターボ化したモデルが用意されています。
なお姉妹車である三菱 eKワゴンでは、ハイウェイスターに相当するシリーズは「eKクロス」という車名になります。こちらはSUVルックで、これまたアグレッシブなフロントマスクが採用されています。
力強いフロントマスクとSUV風のディテールを採用した三菱 eKクロス。
日産 デイズには運転支援システム「プロパイロット」が軽自動車としては初めて設定され(※三菱eKでは「MI-PILOT」という名称になります)、2020年8月の仕様変更ではプロパイロットを含む予防安全装備全般の機能をさらに向上させました。
販売台数の面ではスズキ ワゴンRに水を開けられている日産 デイズ/三菱 eKですが、車としての機能やフィーリングはまったく負けておらず、「むしろ上回っている」と感じる部分もあります。おすすめできる軽ハイトワゴンであることは間違いありません。
10位 ホンダ N-WGN(129万8000~182万7100円)
乗り味の良さに加えて「デザイン」も大いに魅力的な軽ハイトワゴン
軽自動車全体の10位に入ったホンダ N-WGNも、1位のスズキ ワゴンRに勝るとも劣らぬ実力と魅力を備えた軽ハイトワゴンです。
現在販売されているのは2019年7月に登場した2代目モデルで、車台を新世代の軽自動車向けプラットフォームに刷新。そして運転席の下に燃料タンクを置く「センタータンクレイアウト」により、荷室の床面は従来モデルより180mm低床化されました。これにより、荷物の積み下ろしなどが非常にやりやすくなっています。
パワーユニットは改良を受けたノンターボエンジンとターボエンジンで、衝突軽減ブレーキや誤発進抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、アダプティブ・クルーズ・コントロールなどからなる最新の運転支援技術「Honda SENSING」は全車標準装備です。
そして走りの質感も非常に高い2代目ホンダ N-WGNなのですが(具体的には「ソフトな乗り心地なのにしっかり感も強い」といった感じです)、それ以上に魅力的なのは「デザイン」です。
全体の造形はプレスラインを極力廃したシンプルなもので、標準車は、丸目のヘッドランプの上に角型のターンランプを配した、かつての軽商用車「ステップバン」をちょっと彷彿とさせる素敵なレトロ系。そして「N-WGNカスタム」のほうも、他社のカスタム系モデルが押し出しの強さをアピールするのに対し、N-WGNのカスタムは「シックで未来的」といった感じに仕上がっています。
いわゆる「押し出し感」ではない方向でデザイン的な個性を追求したN-WGNカスタム。
最新世代の設計にもとづくハードウェアの優秀さもさることながら、ホンダ N-WGNの場合は「デザインの良さ」という一点だけでも選ぶ価値は大いにある、なかなか稀有な軽ハイトワゴンであるといえます。
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執筆者
伊達軍曹 - 外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。自動車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。以来、有名メディア多数で新車および中古車の取材記事を執筆している。愛猫家。
- <公開日>2022年1月4日
- <更新日>2022年1月4日