スズキのジムニーが、相変わらずものすごい人気だ。
ただし正確には、「ものすごい」のは納車待ちの長さ(現在でも1年程度)のほう。販売台数は「ものすごい」までは行かない。平均すると月間2500台程度で、軽自動車の販売ランキングだと14位(今年9月)くらいのところにいる。
スズキ ジムニーは超本格的なオフロード4WD車で、本来は送電線の管理などに使われるようなクルマだ。もともとそんなに数が売れることは想定していないので、生産台数のキャパシティに限界があり、2018年の発表以来ずっと「1年以上」という長期の納車待ちが続いている。
現行型ジムニーがこれほどの人気になった理由は、性能よりもそのデザインにある(だろう)。メルセデスGクラスを思わせる、その超シンプルかつ重厚なデザインが、オフロードに興味のない一般ユーザーの心もつかまえてしまった。
しかし実際にジムニーを普段使うとなると、それなりに不便さはある。
まず、ドアが2枚しかない。後席はかなり狭いうえに、乗降性はスポーツクーペ並みに悪い。前席を前に倒して、狭い隙間からなんとか乗り込む形になる。
ラゲッジスペースも狭い。後席を前に畳まない限り、ほんの小さな荷物しか積めない。
トランスミッションは5MTと4速ATの2種類。エンジンは全グレードターボ付きなのでパワーは十分で、5MTを選べば痛快に走ってくれるが、4速ATを選ぶとかなりトロく、「あれっ?」と感じる。
こちらが超本格軽オフローダーであるスズキ ジムニー。
ジムニーが旧態依然とした4速ATを採用している理由
現在、軽自動車のATは、無段変速のCVTがほとんどになっている。その進化はすさまじく、わずか660ccのエンジンパワーを最大限効率よく路面に伝えてくれる。
ところが軽自動車の場合、トルクコンバーターを使った通常タイプのATだと、途端に加速がトロくなる。トルクコンバーターはオイルを介してパワーを伝えるので、どうしてもロスが生じるからだ。
登録車のATは、トルクコンバーター式でも効率アップを実現した高性能タイプになっている。近年は10速ATなんていうのも登場しているが、軽はCVTが主流なので、トルコン式ATは商用車用がほとんど。コストをかけることができないので、4速のまま進化が止まっているし、パワーの伝達効率もあまり上がっていない。
ではなぜジムニーがトルコン式ATを使っているかというと、耐久性を優先しているからだ。
軽自動車のCVTは、それほど酷使されることを想定していない。商用車のATがトルコン式なのも、20万kmとか30万km走ってもビクともしない、万全の耐久性を優先しているからだ。
つまりジムニーのトルコン式ATにはちゃんとした理由があるのだが、一般道をフツーに走るうえでは、加速はトロいし燃費も悪いのである。日々の仕事で商用軽バンを使っている方々がアクセルベタ踏みで走っているのを見ると、その苦労に頭が下がる思いだ
ジムニーのAT車のカタログ燃費(WLTCモード)は14.3km/Lとなっている。実燃費は10km/Lを少し上回る程度だ。同じエンジンを積むハスラー(ターボ4WD)はCVTを使っているので20.8km/L。実燃費でも16km/Lくらいは走るから、その差はかなり大きい。
ジムニーは本来、一般ユーザーが日常的に使うようには作られていない。もちろん使って使えないことはないが、仮にジムニーを買うならば、こういったデメリットも理解しておく必要がある。
普段づかいがメインならジムニーよりタフトがおすすめ
そこで、というわけでもないのだが、一般ユーザーが日常的に使うのにベストな、ジムニーの代わりになる軽SUVはどれか?
私が推薦するのは、スズキのハスラーよりも「ダイハツ タフト」である。
もちろんハスラーもいいクルマだが、タフトはもっといいクルマだ。ポイントは3つある。
【ポイントその1】
クルマの骨格(シャシー)の剛性が、タフトのほうが優れている。ダイハツは現在のタントとタフトから、DNGAと呼ばれる新しい骨格を導入した。
これは親会社であるトヨタのTNGAのダイハツ版で、わかりやすく言えば、クルマにドイツ車みたいなしっかり感をもたらしてくれる。タフトの乗り味のしっかり感はハスラーより一段上。骨格がしっかりしていると、乗り心地もよくなる。
【ポイントその2】
タフトのスタイルは、タテヨコ斜めの直線だけで構成されたような幾何学的なもので、個性的だしとてもカッコいい。
ジムニーも直線と丸だけの超シンプルな古典的デザインだが、タフトのデザインはロボットを連想させる未来的なものでもあり、特殊なカッコよさがある。
一方ハスラーのデザインは、ファミリー向けで親しみやすいが、やや無難。見た目の特別感なら断然タフトだ。
ギア(道具)っぽいと同時にロボット風でもあるダイハツ タフトの個性的なデザイン。
こちらがスズキ ハスラー。よくまとまっているデザインではあるが。
【ポイントその3】
タフトは、全モデルガラスルーフを採用していて、室内に乗り込んでも未来っぽさが感じられる。SF映画『ブレードランナー』っぽくてステキだ。
タフトの全車に標準装備となる「スカイフィールトップ」。
タフトの弱点はリアシートにある。ドアは4枚だから乗降性には問題ないが、軽では当たり前のリアシートのスライド機構やリクライニング機構が省かれているのだ。その点に関してはジムニーにやや近い。常に後席を利用するファミリーには、後席のユーティリティが物足りなく感じるかもしれない。
その点ハスラーは軽の定番どおり、リアシートは左右別々に前後スライドするし、リクライニングもできる。すべての軽トールワゴンに共通して言えることだが、リアシートを目いっぱい後ろにスライドさせた時の足元の広々感はトヨタ クラウンなんか相手にしない。
しかしダイハツは、タフトを「ちょっと特別なクルマ」として開発した。後席のユーティリティを省いて、その分のコストを全車ガラスルーフ標準装備に振り向けたのだ。
「どっちも付ければよかったのに」と思うところだが、軽のコスト競争は登録車の比ではない。ライバルより5万円高かったら、もうまったく勝負にならない。何かを欲張ったら、何かを捨てなければならないのだ。
後席のスライド&リクライニング機構は残念ながら省かれているダイハツ タフトの室内。
後席に人が乗らないならばタフトの考え方は合理的
狙いどおりタフトは特別なクルマに仕上がったが、販売実績を見ると、ハスラーにかなり水を開けられている。今年1~9月の販売台数を比べると、ハスラーが6万7005台なのに対して、タフトは4万6529台。ちなみにジムニーは2万8298台となっている。
ジムニーは、2枚ドアの超本格派オフロード軽としては信じられない販売台数だが、タフトの数字も、それなりに特別なクルマにしては健闘しているんじゃないだろうか。
軽自動車に限らず、クルマの平均乗車人数は2名に満たない。後席に人が座ることは、あまり多くはないのが実態だ。つまりタフトの考え方は合理的だし、2枚ドアのジムニーだって、不便に感じることはそれほど多くはない……だろう。
しかし人間は欲深い。「ひょっとして乗るかも」「ひょっとして不満が出るかも」と思うと、後席左右スライド&リクライニング機構の付いたハスラーを選んでしまう。ガラスルーフがないことに対する不満は、通常まず出ないだろうが、後席のユーティリティはそうはいかない。
ただ私はカーマニアなので、特別感のあるタフトに、より魅力を感じてしまうのです。ダイハツ タフト、いいですよ。
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2022年1月4日
- <更新日>2022年1月4日