近年、ダイハツが作るクルマが非常によくなっている。ダイハツは、軽自動車ではシェアNo.1で、もともといいクルマを作ってきたが、登録車(いわゆる普通車)の作りも飛躍的に向上しつつある。
ダイハツが作っている登録車はブーン/パッソ姉妹とトール/ルーミー/ジャスティ姉妹、そしてロッキー/ライズ姉妹の3車種だが、そのうちロッキー/ライズはダイハツが開発した新世代の車体骨格「DNGA」を採用していて、それまでのダイハツ車とは比べ物にならないほど走りがしっかりした。
ちなみに、これら7車種はすべてダイハツが開発・生産しているが、パッソとルーミー、ライズはトヨタに供給され、トヨタディーラーで売られている(ジャスティはスバルディーラーで販売)。
それらをダイハツ製だと知らずに乗っている人もいるはずだが、ダイハツはトヨタの子会社。トヨタグループの小型車部門を担当していて、基本的に1Lクラスより小さいクルマはダイハツが作っているという構図だ。
今回取り上げるのは、ダイハツが開発した小型SUV「トヨタ ライズ」だ。ダイハツではロッキーの名前で売られているが、中身は基本的に同じで、違うのは顔つきぐらい。同じクルマだと思っていい。ただし販売台数はライズのほうが圧倒的に多い。
こちらがトヨタ ライズ。写真は2021年11月の一部改良時に追加されたハイブリッド車。
トヨタ ライズのリアビュー。ちなみに今回の一部改良では予防安全・運転支援システムの内容も強化された。
今回、1Lターボに加えて「ハイブリッド」と「1.2Lガソリンエンジン」が登場
さて、昨年11月にトヨタ ライズはマイナーチェンジを受け、ダイハツ初のストロングハイブリッドシステムが投入された。それが「eスマートハイブリッド」だ。
このハイブリッド、エンジン(1.2L)は発電機を回すことに徹し、その電力をバッテリーに貯め、それでモーターを回して走るという仕組みだ。日産の「e-POWER」と同じ形式であり、専門的には「シリーズ式」と呼ばれる。
なぜ、エンジンで発電した電力でモーターを回すなんていうまどろっこしいことをするかというと、こうすると、エンジンの効率のいいところだけをつまみ食いできるからだ。
エンジンというものは、アクセルを中ぐらい踏み込んだ状態が一番効率よくパワーを出すので、その状態で発電と蓄電を行い、必要ない時はエンジンを止めてしまう。モーターはバッテリーに貯められた電力を調節して使い、タイヤに伝える。その結果として、ガソリン車よりも燃費よく走れるというわけだ。
トヨタが開発したハイブリッドシステムは「パラレル式」というもので、これよりもっと複雑なメカを持つ。燃費はパラレル式のほうが有利だが、複雑な分だけお値段も高くなる。ダイハツは、小型車にはシンプルなシリーズ式が適していると判断し、あえてトヨタ製のハイブリッドとは別のシステムを開発したのだ。
また今回のマイナーチェンジでは、新開発の1.2Lガソリンエンジン車も登場した。これまでライズのエンジンは1Lのガソリンターボ1本だったが、それが一気に3本立てになったわけだ。
「eスマートハイブリッド」のパワー感や静粛性はそこそこレベル
で、ぶっちゃけこの3本の中ではどれが一番オススメだろうか?
従来からの1Lターボ(98ps)はターボだけに加速が力強く、今回のマイナーチェンジからフルタイム4WD専用になった。4WDはメカ的に重くなるので、パワフルなこのエンジンが適役。ライズの4WDを選ぶと自動的に1Lターボになるが、雪道ドライブが多いドライバーは、これを選ぶのが適切だろう。
一方のFFモデルは、1.2Lガソリン車とハイブリッド車のどちらかから選択することになる。
新しい1.2Lエンジン(87ps)は1Lターボほどパワフルではないが、低い回転域からトルクがあり、軽快に回って燃費がいい。1Lターボは街中だとリッター13kmぐらいしか走らなかったが、1.2Lのほうは、都心部の一般道でリッター16km走ってくれた。この数字、ガソリン車としてはかなり優秀だ。たとえば日産ノートはハイブリッド(e-POWER)ながら街中ではリッター20km程度だから、それに迫る低燃費である。
トヨタ ライズは国産最小のコンパクトSUVで、価格的にもコンパクトSUVの中で一番お安い。4WDの必要がないならば、1.2LのFFモデルはあらゆる面でバランスがよく、クルマ好きの視点からも好印象だった。ライズのキャラクターにぴったり合うのではないだろうか。
MJブロンディ氏が「ライズのキャラに合っている」と言う新開発1.2Lガソリンエンジン搭載車。写真のグレードは「G(2WD)」。
一方、注目のハイブリッド。こちらはどうかというと、パワー感や静粛性など走りの質感は1.2Lガソリン車といい勝負である。
同じシリーズ式ハイブリッドを採用する日産 ノートe-POWERは電気自動車のような力強い加速がウリだが、ライズ ハイブリッドの加速はやや控え目だ。
時速40kmぐらいまではエンジンを停止してモーターだけで走れるし、一定の速度で巡行しているような時も、短時間ならエンジンが止まって静かなクルージングを楽しめる。だがバッテリー容量が小さい分、エンジンは頻繁に発電する必要があり、唸り音も大きめだ。「ハイブリッド=静か」と考えていると、やや裏切られる。
アクセルを戻すと、発電機を回す力を利用した「回生ブレーキ」が働いて、あまりブレーキペダルを踏まずに走れるモードを選ぶことができる。ただ、ノートe-POWERに比べると回生ブレーキの利きは若干弱めで、一般ドライバーがとまどわないように配慮されている。
全体の印象としては、ライズ ハイブリッドは日産 ノートe-POWERのような電気自動車的なフィーリングは薄く、静かさや快適性などの質感も高くない。そのあたりはかなり割り切って作られている。
SUVとしては最高レベルの燃費をマークするトヨタ ライズのハイブリッド車。ただ、「ハイブリッド車ならではの静粛性」については期待しすぎないほうがいい。
「eスマートハイブリッド」の燃費は素晴らしいが、必ずしもおトクではない
ただしハイブリッドの「燃費」は非常に優れている。1.2Lガソリンモデルとほぼ同条件でテストしたが、なんとリッター28kmを超えた。実燃費でこんな数字を出せるクルマはそうない。SUVとしては、トヨタのヤリスクロス ハイブリッドと並んで燃費世界一だろう。
この燃費には、どれくらいのバリューがあるだろうか。
1.2Lガソリン車とハイブリッド車の価格差は約30万円。「ハイブリッドカーに乗ってみたい!」という願望があれば別だが、パワーや快適性など走りの質感は互角に近いので、違いはほぼ燃費だけと考えてもいい。
で、約30万円の価格差のモトは取れるのだろうか? リース金額で比べるとわかりやすい。
【トヨタ ライズのリース価格 オリックスリース「いまのりくん」の場合】
●2WD 5ドア Z (5人乗り) 1200cc ガソリン FCVT|4万2350円/月
●2WD 5ドア HYBRID Z( 5人乗り) 1200cc ガソリン AT|4万7850円/月
その差、月々5500円である。
ガソリン代は、ハイブリッドはガソリンの約6割で済む。執筆時点でのレギュラーガソリン全国平均価格は159円/L。人によって走り方はさまざまだから、あくまで大まかな計算だが、月々最低でも1000kmは走らないと、この5500円の差を取り戻すことはできない。
Z(ハイブリッド 2WD)の運転席まわり。
月々1000kmというのは、かなりの距離である。ソニー損保の調査によると、乗用車の年間平均走行距離は6000km程度。つまり月々500kmだ。相当な距離を走る人でないと、ハイブリッド車を選んでもモトは取れないことになる。
燃費はクルマ選びの重要なファクターで、燃費がいいと非常に気分がいいものだ。ただし実際の経済的負担を見ると、ガソリン代よりも車両代の比重が大きく、燃費のいいクルマを選んでも、必ずしもトクにならないケースは多い。
もっとも好バランスでおトクなのは1.2Lガソリンエンジン
それでも、ハイブリッド車にガソリン車にはない走りの魅力があれば、高いお金を払うバリューがあるわけだが、ライズハイブリッドの場合、燃費以外にあまり大きなアドバンテージは見あたらなかった。低コストで燃費に特化したハイブリッドを開発したダイハツの真の狙いは軽自動車への展開にあるわけだが、「ハイブリッドらしい未来感の高いハイブリッド」に乗りたいなら、同じトヨタのヤリスクロスを選んだほうがいい。
ちなみにそのヤリスクロスのリース月額はというと、同じくオリックスリース「いまのりくん」の場合で、
●2WD 5ドア HYBRID Z (5人乗り) 1500cc ガソリン FCVT|5万1370円/月
となっている。装備が簡素な2WD 5ドア HYBRID「G」グレードなら4万7740円。ライズハイブリッドの「Z」とほぼ同額になる。
ということで、トヨタ ライズは1.2Lガソリン車のバランスが非常によく、もっともお買い得であるといえそうだ。
MJブロンディ氏が推奨する1.2Lガソリンエンジン車。写真のボディカラーは、2021年11月の一部改良で新たに追加された「スムースグレーマイカメタリック」
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2022年2月15日
- <更新日>2022年2月15日