ジャンルを問わず「人気商品」には、人気を博すだけの理由=良いところが必ずあるものです。そしてそれは車においても同様で、大ヒットしている車にはほぼ必ず、ヒットするだけの理由=美点があります。
このコーナーでは「今、かなり売れてる車」をピックアップし、その売れてる理由を明らかにしてまいります。
第8回となる今回は、2020年8月の発売からの1年間だけで11万台に迫る圧倒的な販売台数を記録したコンパクトSUV、「トヨタ ヤリス クロス」です。
コンパクトなSUVだが荷室は意外と広い
ヤリス クロスが日本で発売されたのは2020年8月のこと。コンパクトカーであるトヨタ ヤリスのSUV版ですが、ボディサイズはヤリスよりもひと回り大きく、具体的には全長4180mm×全幅1765mm×全高1590mmというまあまあのサイズ感を伴っています。
使われている車台はトヨタの最新設計思想に基づく「GA-B」というもので、これがなかなかの優れものなわけですが、ヤリス クロスのもうひとつ魅力は、SUVならではの「背の高さ」を生かしたパッケージングです。
ラゲッジスペースの容量はクラストップレベルとなる390Lで、コンパクトなSUVでありながら110Lのスーツケースを2個、または9.5インチサイズのゴルフバッグ2個を収納できます。さらに、スマートキーを携帯してリアバンパーの下に足を出し入れするとリアハッチが開く「ハンズフリーパワーバックドア」も、上級グレードのオプション装備ではありますが、トヨタのコンパクトSUVとしては初めて採用されました。
ちなみにヤリス クロスのハンズフリーパワーバックドアは、既存のトヨタ車に備わる同様の機構と比べて約2倍のスピードで開閉されます。
ボディサイズの割にトヨタ ヤリス クロスの荷室は十分な広さがある。載せる荷物に応じて荷室床面の高さを2段階に調整できる「6:4分割アジャスタブルデッキボード」もかなり便利。
ハイブリッド車の燃費は圧倒的に良好。先進安全装備も抜かりなし
パワーユニットは2種類。ひとつは最高出力120psの1.5L直3直噴ガソリンエンジンで、こちらは「ダイナミックフォースエンジン」という最新世代のものです。そしてもうひとつが、その1.5Lエンジンをベースとするハイブリッド(システム出力116ps)です。
WLTCモード燃費はガソリン車が17.4km~20.2km/Lで、ハイブリッド車が26.0km~30.8km/L。ガソリン車の燃費は「クラス標準より少し上」といったところですが、ハイブリッド車のそれは「SUVとしては圧倒的に良好!」というニュアンスです。このあたりも、トヨタ ヤリス クロスというSUVが非常によく売れている理由のひとつでしょう。
予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」は、ごく一部の特殊なグレードを除く全車に標準装備。ヤリスと同様にプリクラッシュセーフティ(いわゆる自動ブレーキ)や低速時加速抑制機能などが備わるほか、電動パーキングブレーキの採用により「レーダークルーズコントロール」は全車速追従機能付きに進化しています。さらに、高速走行中の強い横風を検知して車線からの逸脱を抑制する制御も、トヨタ車として初めて採用されました。
高速走行中に強い横風を検知するとS-VSC(ステアリング協調車両安定性制御システム)が作動し、車線からの逸脱を抑制してくれる。
最新世代のSUVとしては異例に手頃な新車価格
以上のとおりトヨタ ヤリス クロスには優れた車台と優れたパッケージング、低燃費な最新のパワーユニットと、同じく最新世代の運転支援システムが採用されており、そしてカテゴリー的にも今一番人気の「SUV」である――ということで、もうこれだけで「売れない理由がない!」といった感じですが、ヤリス クロスはそれに加えて「その割に、車両価格はけっこうお手頃である」という魅力もあります。
トヨタ ヤリス クロスの車両価格は、具体的には下記のとおりです。
【ハイブリッド】※カッコ内は4WD
●ハイブリッドX|228万4000円(251万5000円)
●ハイブリッドG|239万4000円(262万5000円)
●ハイブリッドZ|258万4000円(281万5000円)
【ガソリン】※カッコ内は4WD
●X“Bパッケージ”|179万8000円(202万9000円)
●X|189万6000円(212万7000円)
●G|202万円(225万1000円)
●Z|221万円(244万1000円)
格安な代わりに運転支援システムが省略されている超最廉価グレード「X“Bパッケージ”」はやや特殊な存在ですが(主にはレンタカーなどの法人利用向けグレードです)、ガソリン車の中間グレードであれば200万円ちょい、圧倒的な燃費性能を誇るハイブリッド車でも、最上級グレード以外の車両本体価格は200万円台前半で収まります。
さまざまな要因により「新車の値段」が昔よりずいぶん高くなっている今、最新の設計思想に基づく装備充実のSUVが200万円台前半で狙えるという事実は、ユーザーにとってはあまりにも魅力的です。このポイントこそが、ヤリス クロスという車が売れまくっている根本的な理由といえるでしょう。
車内はさほど広くない。だが荷室が広ければそれでOKなのかも
しかしそんなトヨタ ヤリス クロスにもちょっとした欠点はあって、それは「車内はあまり広くない」ということです。
同じ「Bセグメント」と呼ばれる車格に属するホンダ ヴェゼルや日産 キックスの居住空間は、ヤリス クロスのそれと比べると明らかに広い作りになっています。それゆえ、後席にも人を乗せる機会が多い人は、ヤリス クロスではなくヴェゼルまたはキックスを選んだほうがいいでしょう。
ただ、それらよりもトヨタ ヤリス クロスのほうが圧倒的に売れているという事実から逆算するのであれば、「最近は後席の広さをさほど求めていない人も多い」という仮説が成り立ちます。「普段、乗るのはせいぜい2人だから、荷室さえ広ければ、そして価格が手頃であれば、それで十分だよ」と考える人が多い――ということです。
後席居住スペースは決して広いとはいえないヤリス クロス。だが、そもそも1~2名乗車がほとんどなら何の問題もないのかも。写真のグレードはHGYBRID Z。
まぁこの仮説が正しいかどうかはわかりませんが、いずれにせよトヨタ ヤリス クロスは「比較的安価で、小ぶりだけど決して小さすぎるということはない、最新の車台やパワーユニット、運転支援システムなどにより、とってもよく走る低燃費なクロスオーバーSUVである」ということです。
そんなSUVが今、売れないはずがないのです。
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執筆者
伊達軍曹 - 外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。自動車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。以来、有名メディア多数で新車および中古車の取材記事を執筆している。愛猫家。
- <公開日>2022年2月15日
- <更新日>2022年2月15日