当ウェブサイトを見ていたところ、新車の「人気ランキング」でスズキ ジムニーが1位(原稿執筆時点)であることに気づいた。
ジムニーが1位というのは、ちょっと不思議に感じる。なにしろジムニーは、昨年の軽自動車販売ランキングで13位に過ぎないのだ。
ちなみにジムニーは現行モデルの発売以来、長い納車待ちが続いている。発売から3年半を経た今でも納車待ち約1年。つまり、手に入れたくても、なかなかそれがかなわないクルマでもある。
それほど多く売れてないうえに、手に入らないジムニーが、オリックスリースのウェブサイトで人気第1位というのは、どういうことだろう?
2018年に発売された現行スズキ ジムニー。今なお納車までに長い時間を必要とする超人気の軽オフローダーだ。
もちろん現行ジムニーは人気がある。だからこそ納車待ちが長いわけだが、そもそもかなり特殊なクルマなので、本来、それほど数は売れない(はず)。車体構造が他のモデルとまるで違うため、ジムニーの生産ラインは限られており、発売後に人気が爆発しても、当初の1.5倍への増産がせいいっぱいだった。生産台数に限りがあるから、納車待ちが長くなっているだけとも言える。
そんなマニアックなクルマがなぜ、オリックスリースで1位なのか?
そこで私はひらめいた。
ひょっとしてオリックスリースなら、ジムニーが早く手に入るのかも!
その旨、オリックス自動車マイカーデスクに問い合わせてみたが、「いえ、オリックスリースでも、ご契約いただいてからディーラーに発注しますので、早く手に入るわけではありません」との回答であった。
私「じゃあ、やっぱり1年くらいかかるんですか?」
マイカーデスク「はい。1年かそれ以上かかってしまいます」
そうなのか……。それなのにジムニーが1位なのか!
つまりスズキ ジムニーの1位は、純粋な人気の高さに加えて、手に入らないから余計に情報が欲しくなるということなのだろう。
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メルセデス・ベンツ Gクラスもジムニーも、現行型はオフロードを走らない?
前述のように、ジムニーはかなり特殊なクルマだ。どう特殊かと言うと、軽自動車唯一の本格的オフロード4WD車なのである。最近はオフロード4WDという呼び方は廃れ、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)と呼ぶのが一般的だが、ジムニーとしては、「そんな軟派な名前で呼ばれたら困る!」と思っている気がする。
が、現行ジムニーがこれほどの大人気になったのは、本格派であるかないかはそれほど関係なく、単にカッコいいからだろうと想像している。あの、まったく飾り気のない真四角なジープスタルが、超硬派っぽくてイケてるということだ。
メルセデス・ベンツGクラスがジムニー同様に納車待ち約1年なのも、理由は同じだ。あちらも真四角なジープスタイルの本格派オフロード4WD。Gクラスユーザーの多くは本格的にオフロードを走るわけではなく、単にカッコいいから買っている。生涯一度もオフロードを走らずに終わるGクラスも少なくない。いや大部分だろう。
先代までのジムニーは、かなり高い割合で、林道や河原でオフロードを楽しむために使われていた。もともと林業関係者や送電線の管理等のために作られたプロユースのクルマだし、中古車も安く手に入ったから、趣味のオフロードレースで引っ繰り返って廃車になっても、すぐ次のジムニーを中古で買ってきて仕上げてレースに出る……みたいな使われ方もされてきた。
が、現行ジムニーは、そんな風にガンガン使うのはためらってしまう。新車価格は148万5000円からで、決して高くはないのだが、ここまで手に入りづらくなると、高級車の香りが漂ってくる。だから余計欲しくなる。結果的に当サイトでも人気ナンバー1になったのだろう。
後席は狭く、得意の4WDシステムを使う機会もほとんどない
前置きが長くなったが、そんなジムニーは、実際のところどうなのか。ジムニーをごく普通の日常の足として使うケースで考えてみよう。
大きさは軽自動車枠いっぱいなので、全長と全幅は他の軽自動車と同じだ。全高はハスラーより少し高いが、大きな差はない。
大きな違いは「3ドア」である点だ。つまり後席用のドアはなく、後席に乗降するためには前席を前に倒さなければならない。かなり不便である。後席はスペース的にもかなり狭く、大人が長時間座るのはけっこうつらい。
現在の軽自動車は、後席スライドドアが当たり前になっている。前席よりも後席を重視した作りで、まさにファミリー向きだ。その点ジムニーは、まったくファミリー向きではない。
ジムニーのキャビンスペース。ドア数はリアゲートを入れて3枚のみで、後席も決して広くはない。
またジムニーは、後輪駆動ベースのパートタイム4WDを採用している。現在の軽自動車は、そのほとんどが前輪駆動(FF)ベースで、4WD車もフルタイム方式。FFとか4WDを自分で切り替える必要はなく、全自動で走ってくれるが、ジムニーの4WDは自ら切り替える必要がある。
しかもジムニーの4WDは、オフロード専用。その構造はシンプルかつ頑丈で悪路の走破性能は非常に高いが、舗装路では使わないほうがいい。取扱説明書には、「雨でも舗装路で4WDに入れるのは避けてください」と書かれている。ヘタすると壊れちゃうからだ。つまり、オフロードに行かない限り、ジムニーの4WDは宝の持ち腐れである。
ジムニーの駆動方式は2WDから4WDに自動的に切り替わるのではなく、シフトレバーの手前にある副変速機を自分で操作し、4WDモードにする必要がある。
「耐久性第一」ゆえ燃費も乗り心地も決して良くはない
ジムニーの車体骨格は、トラックなどで使われるラダー(はしご型)フレームを採用している。非常に頑丈で耐久性が高いが、車体はかなり重い(1030kg~1040kg)。軽自動車としてはもっとも重いクラスに属する。
そしてジムニーのサスペンションは、前後ともにリジットアクスルだ。これまたトラックみたいなものである。頑丈だし悪路に強いのだが、乗り心地にはマイナスで、高速道路では直進安定性が悪い。ただし現行ジムニーは、先代に比べると乗り心地も直進安定性も大幅に向上していて、そこに関しては日常ユースでもなんの問題もないレベルにある。
モノコック構造という方式のボディ兼フレームを採用している一般的な乗用車と違い、スズキ ジムニーははしご型のフレームの上にボディを載せるという、トラックと同じ方式。そのほうが、オフロードを走るには圧倒的に有利なのだ。
ジムニーのトランスミッションは、5速MTか4速ATである。現在、軽のATはそのほとんどがCVT(無段変速)だが、ジムニーはあえて4速ATを採用している。そのほうが耐久性に優れているからだ。ジムニーの耐久性は、林道を何十万km走るとか、通常は考えられないレベルを想定している。
だがジムニーの4速ATには欠点もある。耐久性第一のATゆえに伝達効率が劣り、遅くて燃費が悪いのだ。ジムニーは全車ターボエンジンなので、遅さはターボのパワーでおおむねカバーされているが、燃費はどうにもならない。軽自動車の割に燃費はかなり悪く、ATだとリッター10km走れば御の字だ。CVTの軽なら最低でもリッター15kmぐらいは走るから、それに比べると断然悪い。5速MTのほうはリッター12~13kmくらいである。
だがジムニーには「特別な何か」がある。だから売れるのだ!
とまあこんな感じで、日常ユースにはマイナス材料だらけのジムニーだが、それでも多くの人がジムニーを欲しがっている。なぜなら、すごくカッコいいから!
かつて軽自動車は最低限の「移動の足」だったが、現在は「特別な何か」がないと売れなくなった。多くの軽はそれを、使い切れないほどの過剰な広さで実現しているが、ジムニーは使い切れないほどのオフロード性能や、シンプルでタフなデザインで実現している。
人間、少し割り切れば、どんなクルマだって日常ユースにできる。スズキ ジムニーの多少の不便さは、「でもカッコいいから」の一言で払拭できるはずだ。
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2022年3月14日
- <更新日>2022年3月14日