世の中、なぜか本物志向が高まっている。クルマに関して、本来必要ない(ぐらいの)本物を求めるユーザーが増えている。その代表がオフロード4WD。新型トヨタ ランドクルーザーの納車が4年待ちというニュースはショックだったし、スズキ ジムニーも相変わらず1年以上待たないと新車を購入できない。
本物志向という点では、軽トラや軽バンもその範疇だろう。芸能界のクルマ好きの間では軽トラがブームになっている。軽トラの飾り気のない本物感に、オリジナルのカスタマイズを加えると、不思議なほど「モテそうなオーラ」が出てくる。
軽バンに関しては、ホンダN-VANの車中泊仕様が盛り上がっているし、発売されたばかりのダイハツ アトレー/ハイゼットカーゴも、驚くほどの初期受注を集めた。商用車はすべてプロ仕様。その割り切った姿が本物っぽくてカッコいいのである。
ところで、みなさんはトヨタのプロボックスというクルマをご存じですか。当サイトで「法人向け」を選択した方なら、まず知っているはずだが、個人向けの場合、知らないかもしれない。
こちらが、もしかしたら知らない人も多いかもしれないトヨタ プロボックス。
ユーザーの要望を徹底的に汲み取って生まれた「プロ仕様」
プロボックスは、プロ仕様(商用車)のライトバン。職人さんはじめ、ありとあらゆる分野のプロに愛用されている。このプロボックス、登場したのは2002年なので、今年ちょうど二十歳になった。20年間フルモデルチェンジを受けずに、好評を維持したまま、静かに売れ続けている。
実はプロボックスは、その道のプロ(職人さん等)だけでなく、我々クルマのプロ(自動車の専門家)の間でも評価が高い。ある意味、別格扱いされていると言ってもいい。
とある高級自動車専門誌の編集者は、仕事でありとあらゆる高級輸入車を扱いつつ、自分の足は20年来プロボックスである。彼は「これ以上のクルマはない」とまで断言する。プロボックスは、あらゆるクルマを知り尽くしたうえでたどり着く、悟りの境地なのである。
プロボックスの何がいいかと言えば、それはもう、おふくろの作るみそ汁のようなもの。特にうまいわけではないが、飽きがこなくて心が和む。
プロボックスの開発陣は、これを使う人たちの日々の欲求を徹底的にくみ取ってクルマを作った。その基本は20年変わっていないし、8年前のマイナーチェンジでさらにブラッシュアップされた。
8年前に追加された「紙パック飲料が入る大きめのカップホルダー」や「スマホの上部(時計)だけが見えるスマホホルダー」は、綿密な調査から導き出された、働く人たちの日々の欲求そのものだった。それは、あらゆるユーザーにとっても便利な装備である。
ドリンクホルダーには500mlサイズのペットボトルだけでなく、1Lサイズの紙パック飲料を置くことができる。
写真のスマホホルダーはオプション装備ではなく「標準装備」となる。
耐久性はケタはずれで、走行性能にも不満なし
もちろん車体そのものも、まったく飾り気なく、使いやすさだけを考えて作られている。ただの箱のような車体は、取り回しも積載性も満点。重い荷物を積んで30万km走ることを想定して作られているから、耐久性はケタはずれだ。エンジンも足回りもおふくろの味。それが意外なほど速い。高速道路で先を急ぐプロボックスを目撃したことのある人も多いだろう。
そのプロボックスに今年、新グレードが追加された。価格を抑えたハイブリッド車の「GX」だ。価格は179万円。同じトヨタのヤリスハイブリッドより20万円も安い。
ハイブリッドシステムは2代目プリウスのものがベースで、排気量は1.5Lだ。つまりシステムも20年近い古参兵だが、THS(トヨタハイブリッドシステム)であることに変わりはなく、今乗ってもちゃんと未来感がある。
私は先日、住宅街を歩いていて、背後からハイブリッドカーらしきクルマが近づいて来るのを感じた。ハイブリッドカーは、エンジンを止めて低速でモーターだけで走る時は、歩行者等の注意を喚起するために電子音を発するが、その電子音が聞こえてきた。
私を静かに追い越して行ったのはプロボックスだった。それは新鮮な驚きだった。ガテンな職人さんに、銀行員のような丁寧なお辞儀をされたようで、やたらカッコよく感じた。
手頃な予算で乗りたいなら狙い目は「GX」
プロボックスGXのWLTCモード燃費は22.6km/L。最新のトヨタ ヤリスやアクアなどのハイブリッド車に比べると物足りないが、実燃費でリッター18キロくらいは走る。十分な低燃費だ。ヤリスハイブリッドならリッター28kmくらい走るかもしれないが、なにせこちらは車両価格が20万円も安い。ガソリン代の差でそれを取り返すのは容易ではない。
このGX、装備を厳選したため、お求めやすい価格が実現できたという。どんな装備が厳選されたのかと言えば、トヨタセーフティセンス(自動ブレーキ)をはじめ、エアコン、パワーウィンドウ(運転席・助手席)、集中ドアロック、電動格納式リモコンドアミラー、UVカット機能付プライバシーガラス(リアドア・リアクォーター・バックドア)といったところだ。
パワーウィンドウは前席のみで、後席は手回しハンドル式だが、それで不便ということはまずない。後席の乗員が窓を開けたい時は、ハンドルをグルグル回すだけである。最近はこのグルグル回すハンドルがレアになっているので、若い層には「わー、おもしろーい」とウケるかもしれない。
逆に省かれた装備はドアサッシブラックアウトとフロント時間調整式間欠ワイパー、リア間欠ワイパー、アクセサリーコンセント(AC100V・100W)の4つだ。これだけで、ひとつ上の「ハイブリッドGL」よりも17万円安い。どれもこれも、どうしても欲しいとまでは思わない装備ではないだろうか。
商用車ゆえに「過剰にゴージャスな装備」はいっさい付いていないが、必要にして十分な装備は選択可能。そして積載性や実用性は当然ながらかなりハイレベルだ。
プロボックスの弱点は、商用車ゆえ、後席が非常にシンプルで、リクライニングしないのはもちろんのこと、座面も背もたれも平板で、大人が長時間座るのは少々キビシイという部分である。しかし、後席に座るのが子どもなら、チャイルドシートを装着すれば座り心地は同じ。「乗るのは大抵1~2名」という場合なら、そもそも後席など、付いていればそれでいいはず。ガチのファミリーユースでない限り、多くの方に十分満足してもらえる。
法人ではなくてもプロボックスのリースは可能!
このシンプル&タフなプロボックス、商用車ゆえに、オリックスカーリースの公式サイトでは「法人のお客様」専用となっている。じゃ個人は申し込めないかと言うとそんなことはなく、サイトに記載がないだけで、ちゃんと個人向けも取り扱っているという。
法人向けの場合、リースプランは、メンテンスの付かないファイナンスリースか、メンテナンス付きのメンテナンスリースのどちらかしかないが、個人で申し込めば、多種多様なプランを選ぶことができる。詳しくはメール等で問い合わせていただきたい。
個人ユースでプロボックスを検討している人は、まだ多くはないだろう。そもそもプロボックスという車名を知らない方も少なくないはずだ。が、トヨタ プロボックスは隠れた名車。皆さんの選択肢に入れても、決して間違いはない。安くて便利でよく働くクルマだから、きっと家族全員から愛されるだろう。
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2022年4月11日
- <更新日>2022年4月11日