程よく背が高くて(逆に言うと背が高すぎず)、今流行りの「アウトドア用ギア」のテイストを感じさせるデザインで、実際、アウトドアでの使い勝手も良好である――という「軽自動車SUV」は今、とってもよく売れているジャンルです。
そのなかでも特に売れているのが、このジャンル自体を開拓した「スズキ ハスラー」であり、それを追う形となっているのが、2020年6月に発売された「ダイハツ タフト」です。
どちらもそれぞれナイスな軽自動車であり、それぞれよく売れていますが、この2台はすべての面で似ているため、どちらを選べばいいのか、正直迷うところです。
どちらも実用性と経済性、そしてファッション性に優れる軽自動車SUVであることは間違いないのですが、我々ユーザーは、もしも手に入れるとしたら両方ではなく「どちらか一台」に限定せざるを得ません。
その場合、わたしたちはどちらを選べばいいのでしょうか? さまざまな観点から比較してみることにしましょう。
【ラウンド1:どっちが売れている?】大差ではないが、ほぼ常にスズキ ハスラーが優勢
まずは「今、実際どちらが売れているのか?」というデータを見てみます。
全国軽自動車協会連合会が発表した直近のデータによれば、スズキ ハスラーとダイハツ タフトの販売台数は下記のとおりとなっています。
●2021年1~6月累計
スズキ ハスラー|4万8221台
ダイハツ タフト|3万2191台
●2021年8月単月
スズキ ハスラー|7246台
ダイハツ タフト|4887台
1~6月の累計台数はハスラーが全体の6位であるのに対し、タフトは9位。そして2021年8月の単月では、ハスラーは全体の4位で、タフトは全体の7位。
「どちらが売れているか?」という問いに対しては、「どちらもよく売れているが、スズキ ハスラーが優勢な状態が続いている」というのが答えとなりそうです。
スズキ ハスラーの運転席まわり。遊び心あふれるデザインだが、人によっては「ちょっとやりすぎ」と感じるかも?
ハスラーと比べればオーソドックスなデザインといえるダイハツ タフトの運転席まわり。
【ラウンド2:どっちの使い勝手が良い?】後席と荷室の使い勝手はスズキ ハスラーに軍配が
お次はボディサイズや車内の広さ、使い勝手などを比較してみましょう。
ボディサイズは、全長と全幅は両者とも軽自動車規格ほぼいっぱいということで同一ですが、全高はハスラーのほうが50mm高いという違いがあります。
●スズキ ハスラー|全長3395mm×全幅1475mm×全高1680mm
●ダイハツ タフト|全長3395mm×全幅1475mm×全高1630mm
室内寸法はどうでしょうか?
●スズキ ハスラー|室内長2215mm×室内幅1330mm×室内高1270mm
●ダイハツ タフト|室内長2050mm×室内幅1305mm×室内高1270mm
今度は逆に、高さは両者同じですが、室内の長さと幅は「ハスラーのほうが少し長くて少し広い」という結果に。微妙といえば微妙な違いですが、積載するモノによっては、この16.5cmあるいは2.5cmの違いが効いてくるケースもあるかもしれません。
以上はカタログ数値に基づく比較ですが、「実際の使い勝手」は、数字だけでは判断できない場合も多いもの。ということで主に後席と荷室の「実際の使い勝手の差」を見てみると――やはりスズキ ハスラーが若干優勢といえそうです。
ハスラーのリアシートは左右分割してリクライニングするだけでなく、スライドも可能。さらにリクライニングやスライドは、レバー操作一発で簡単に行うことができます。
それに対してタフトのリアシートはスライド機構が備わっておらず、単純に背もたれが前に倒れるだけです。
これは「タフトの車内後部は、アウトドアで使う荷物を運ぶための空間である」と割り切ったゆえの設計ですので、一概に批判することはできません。とはいえ、もしも後席にも人を乗せる機会がそれなりにあるとしたら、「スズキ ハスラーのほうが明らかに使い勝手は上」と感じることでしょう。
後席は左右独立してスライドとリクライニングが行えるスズキ ハスラー。
後席は左右独立タイプではなく、背もたれを前に倒すことしかできないダイハツ タフト。
【ラウンド3:走行性能と燃費は?】マイルドハイブリッド機構付きのスズキ ハスラーが若干有利
お次は「走行性能」です。
用意されるパワーユニットは、スズキ ハスラーがマイルドハイブリッド機構(簡易的なハイブリッドシステム)付きの直3自然吸気エンジンと、そのターボ付き。ダイハツ タフトも同じく直3自然吸気とそのターボ付きですが、こちらにはマイルドハイブリッド機構は付いていません。
エンジンスペックに若干の違いはありますが、大局的に見れば「お互い似たようなもの」といえる動力性能です。あまり長距離を走らないのであればノンターボエンジンであっても十分な力感があり、ターボ付きエンジン搭載グレードは両者ともなかなか活発です。
ただし燃費性能は、発進時などにモーターがエンジンをアシストするマイルドハイブリッド機構を備えるスズキ ハスラーが若干有利です。
WLTCモード(総合)はハスラーが20.8~25.0km/Lであるのに対し、タフトは19.6~20.5km/L。必然的に燃費が落ちるターボ車同士で比べても、ハスラーの2WDターボ車が22.6km/Lで、タフトの2WDターボ車は20.2km/Lとなります。「大幅に違う!」と騒ぐほどではありませんが、燃費についてはマイルドハイブリッドが全車に採用されているスズキ ハスラーが若干優勢です。
フルハイブリッドほどの恩恵があるわけではないが、やはりモーターのアシストがあると発進加速は力強くスムーズになり、燃費の向上にも寄与する。
【ラウンド4:どっちが安全?】先進安全装備はどちらも付いているが、ダイハツ タフトが一枚上
先進安全装備(運転支援システム)についてはどうでしょうか?
ここまでは全般的に「ハスラーが優勢」といったペースで進んできたこの勝負(?)ですが、先進安全装備についてはダイハツ タフトが若干優勢です。
もちろん両者とも最近の車ですので、先進安全装備に抜かりはありません。ハスラーには「スズキ セーフティ サポート」が、最廉価グレードの「非装着車」を除いて標準装備されていますし、タフトには「スマートアシスト」が全車に標準装備されています。
しかし両者の上級グレードに設定される全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズコントロール(高速道路で前方の車両を勝手に追従し、速度や車間距離を調整してくれるシステム)には少々の差があります。
ダイハツ タフトは電動式パーキングブレーキを採用しているため、渋滞などで先行車が停止しても追従は保たれ、停車時間が長くなるときはパーキングブレーキが自動的に作動します。
それに対してスズキ ハスラーは昔ながらの足踏み式パーキングブレーキ。そのため先行車の停止までは追従しても、約2秒を経過すると再発進してしまいますので、停止状態が長引く場合はフットブレーキを踏んでいなければならないのです。
またダイハツ タフトは夜間の視認性に優れるLEDヘッドランプが全車標準装備ですが、スズキ ハスラーは上級グレードのみにLEDヘッドランプが採用されています。
これらの要素を総合すると、スズキ ハスラーの先進安全装備がプアというわけでもないのですが、ダイハツ タフトのほうが「より優れている」とはいえるでしょう。
電動式パーキングブレーキを採用しているダイハツ タフトのほうが、全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズコントロールとの相性は良い。
【ラウンド5:どっちがお得?】微妙な差はあるが、価格は両者おおむね同じぐらい
ある意味いちばん気になる「価格」は、モデル全体で考えるとスズキ ハスラーが128万400~179万800円で、ダイハツ タフトが135万3000~173万2500円です。しかしモデル全体で比較しても今ひとつピンとこないため、類似するグレード同士で比較してみましょう。
【ノンターボの上級グレード】
●スズキ ハスラー HYBRID X(2WD)|151万8000円(税込)
●ダイハツ タフト G(2WD)|148万5000円(税込)
【ターボ付きの上級グレード】
●スズキ ハスラー HYBRID Xターボ(2WD)|161万2600円(税込)
●ダイハツ タフト Gターボ(2WD)|160万6000円(税込)
【ノンターボの普及グレード】
●スズキ ハスラー HYBRID G(2WD)|136万5100円(税込)
●ダイハツ タフト X(2WD)|135万3000円(税込)
【ターボ付きの普及グレード】
●スズキ ハスラー HYBRID Gターボ(2WD)|145万9700円(税込)
●ダイハツ タフト Xターボ(2WD)|144万1000円(税込)
全体として「似たようなものだが、ダイハツ タフトのほうがちょっと安い」という価格設定です。というか後発であるタフトが、ハスラーよりちょっとだけ安い設定でぶつけてきた――というのが正しいのでしょう。
LEDヘッドランプのことなどを考えると「タフトがお得か?」と思えますが、後席の使い勝手から考えると「ほんのちょっと高いとしても、やはりハスラーがお買い得なのでは?」とも感じられます。
要するに、価格については「どちらもだいたい同じぐらい」ととらえるのが、基本的には正しい解釈でしょう。
【判定】ハスラーの判定勝ちだが、デザインが気に入ったならタフトを選んでもOK
以上の検討からわかったことは、おおむね下記のとおりだといえるはずです。
「諸性能も価格も、俯瞰的に見れば両者おおむね同等ではあるが、細部はスズキ ハスラーがそれぞれ若干ずつ上回っている場合が多い」
この結果が、「販売台数の面でも常にスズキ ハスラーがダイハツ タフトを少々上回っている」という事実につながっているのでしょう。
ということで、このライバル勝負は「スズキ ハスラーの判定勝ち」ということになるわけですが、でもちょっと待ってください。
車というのは、こういった細部をちまちま比較検討することもいちおう大切ですが、実際の使用局面においては「細かな違いはあんまり関係ない」という場合も多いものです。また、「そもそもデザインやたたずまいなどが直感的に気に入ったモデルに乗るほうが、精神的にはシアワセになれる」という側面も大いにあります。
スズキ ハスラーのほうが細かな部分で少しずつ上回っているのはおおむね事実と思われますが、シンプルな道具に徹することで価格を若干抑えたダイハツ タフトの姿勢も、それはそれで正解であるはずです。
ということで、基本的には前述のとおり「スズキ ハスラーの判定勝ち」といたしますが、ダイハツ タフトのデザインと雰囲気が大いに気に入った人は、そのままタフトを選んでも何ら問題はないと、最後にお伝えしたいと思います。
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執筆者
伊達軍曹 - 外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。自動車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。以来、有名メディア多数で新車および中古車の取材記事を執筆している。愛猫家。
- <公開日>2021年10月8日
- <更新日>2021年10月8日
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