カーリース業界で人気があるのは主に実用車である場合が多いが、今回はホンダのシビックを取り上げさせていただきたい。
現行型ホンダ シビックは、スタイリッシュでスポーティなミドルサイズのハッチバック。実用的と言えば実用的だが、室内が特に広いわけではなく、軽やミニバンほど実用的ではないが、どうしても取り上げたいのです。なぜなら、私が個人的に大好きだから。いつか欲しいと真剣に思っている。
シビックと言えば、ホンダを代表する実用的な大衆車……だったのは過去の話で、現在は、ホンダを代表する北米や中国向けの実用車となり、ボディサイズが大陸的に肥大化した。現在のシビックは、メルセデス・ベンツ CクラスやBMW 3シリーズより少し小さい程度になり、日本ではかなり大型の部類に入る。
ボディ形状については、かつては3ドアハッチバックが主役で、脇役として4ドアセダンもある、という体制だった。
かく言う私も30年ぐらい前、3ドアハッチバックのシビックに乗っていた時期がある。4代目シビック3ドアハッチバックの「SiR」というグレードだ。
そのクルマは「VTEC」というF1テクノロジーを注入したホンダ入魂のエンジンを積み、筑波サーキット(直線の短いレーシングコース)では、日産 スカイラインGT-Rにも勝てるほど速かった。私もサーキットでタイムアタックすることが目的で買ったぐらいで、シビックとはかつてそういうクルマだった。
MJブロンディ氏がかつて乗っていた4代目のホンダ シビック
こちらは2021年8月に登場した、通算11代目となる現行型のホンダ シビック
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「5ドアハッチバック」の人気は(少しだけ)復活している
そう言えば、世界的に大ヒットした映画『ワイルド・スピード』第1作にはホンダ シビックが登場している。ボディ形状は4ドアセダン。「日本製のコンパクトで速い車」という位置付けで、悪党たちが数台のシビックに分乗し、大型トレーラーを襲うという設定だった。
現在のシビックは、3ドアハッチバックが世界的に流行らなくなったため消滅。北米や中国では4ドアセダンも存在するが、日本には5ドアハッチバックだけが導入されている。ただこちらも、パッと見はスポーティな4ドアセダンだ。
シビックには「タイプR」という、FF(前輪駆動)車として究極の速さを追求したグレードも設定されている。つまりシビックは今でも「そういうクルマ」であり続けているし、タイプRはマニアに大人気で、中古車が新車の数倍の値段で取引されている。
5ドアハッチバックは、大きく開くハッチバックが荷物を積みやすくて実用的ということで、昔々、ヨーロッパで人気があったボディ形状だが、その後やや廃れた。しかし現在は、世界的に不人気のセダンに代わって「オシャレでスポーティでお金持ちっぽいカタチ」として、再び少しだけ人気が出ている。その代表例がアウディの「スポーツバック」シリーズだ。
密閉されたトランクルームは持たず、大ぶりなゲートを開けた先にラゲッジスペースがある「5ドアハッチバック」というボディ形状を採用している現行型ホンダ シビック
こちらは2022年9月発売予定の「ホンダ シビック タイプR」。最終開発車両は2022年4月7日、鈴鹿サーキットでFF車最速のラップタイム「2分23秒120」を記録した
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現行型シビックの競合はBMWなどのドイツ車勢だ
とは言っても、日本の自動車市場は軽自動車が全体の約3割、ミニバンが3割、SUVが2割、コンパクトカーが2割といった構成になっている。
残りの1割弱の中で、こういったセダン系が陣地の取り合いをしているので、決して台数は多く出ないのだが、現行型シビックのデザインは古典的なカッコよさがあり、中高年だけでなく若い世代にも意外と人気があるという。私も、一目見てほれ込んでしまった。デザイン的にものすごくバランスがよく、スポーティでカッコいいと思うのですが、いかがでしょう?
独特なフォルムではあるが、「なんとも絶妙にバランスがいい」とMJ氏が言う現行型ホンダ シビックのプロポーション
主力の北米市場では、このシビック、ジェネレーションZ世代がターゲットだという。つまり20代です! 日本ではちょっと考えられないが、アメリカではこれぐらいのサイズは一番小さい部類になる。シビックはコンパクトでスタイリッシュなハッチバックなので、自動的に若い世代向けということなのですね。
一方、日本での顧客層は50代と30代、2つの山があるという。子離れ世代と独身貴族の2極ということなのだろう。
実際のところ現在のシビックは、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、あるいはレクサスと比較検討するようなクルマだ。それらと比べると値段はぐっと安いけれど、クルマ好きにとっては同じくらいの満足が得られるのである。
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MTの素晴らしすぎるフィーリングはまさにマニア泣かせ!
現行型シビックのパワーユニットは、1.5Lガソリンターボ(182ps)と、2Lハイブリッドの2種類。ガソリンターボにはAT(CVT)と6速MT(マニュアルトランスミッション)が用意されている。
日本では、MT車の販売比率は1%台に低迷している。1%という数字は、低迷というより絶滅寸前と言ったほうがいいが、現行型シビックが発売された当初、受注の約4割をMTが占めた。シビック=スポーティカーという位置付けは30年前から変わっていないわけで、マニアとしては実にうれしいニュースだった。
パネル中央を横断するハニカムメッシュが特徴的で、エアコン吹き出し口はその内側に隠されているという現行型ホンダ シビックの運転席まわり
トランスミッションはCVTのほかに、カーマニア垂涎の6速MTもラインナップされている
182psという1.5L直4ターボエンジンの最高出力は、BMW 320iの184psとほぼ同じ。ホンダがシビックに関してもっとも意識しているのはBMWなのだろう。エンジンのフィーリングは特段素晴らしいわけではないが、適度にパワフルで気持ちよく加速する。
何よりも、シビックにはMTがあり、BMWにはない。このMTのフィーリングは「古き良きホンダ」そのもの。ものすごくカッチリと精度が高く、シフトチェンジのたびに手が痛いほど「ガキッ」と入る。適度なパワフルさと、この素晴らしい出来のMTの組み合わせは、実にマニア泣かせだ。シビックは月に1000台も売れていないが、マニアの視線は熱いのだ。
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シビックのe:HEVは現存するハイブリッド車の中でもっともスポーティ
今年7月に追加された2Lのハイブリッド「e:HEV」は、新開発の2L直噴エンジンに2つのモーターを組み合わせたもので、基本的にエンジンは発電機役に徹し、モーターで走る。つまり日産の「e-POWER」に近い方式のハイブリッドだが、ホンダの場合はより効率を高めるために、高速道路を一定速度で巡行している際は駆動輪とエンジンを直結し、エンジンで走るシステムになっている。
その状態からアクセルを深く踏み込むとエンジン直結は解かれ、モーターの加速に移行するが、継ぎ目(?)はウルトラスムーズで、まったくわからない。しかも、スポーツモードに入れておけば、エンジン回転が自動的にMT車のようにステップを踏んで変化し、F1マシンのような乾いたレーシィなサウンドまで奏でてくれる。
2022年7月1日に発売された、ホンダ独自の2モーター式ハイブリッドシステムを搭載する「シビック e:HEV」。写真のボディカラーは「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」
実はこのサウンド、実際の音を増幅してスピーカーから流しているのだが、実に自然で気持ちよく、マニアにとってはたまらない。
ハイブリッドにはMTはないが、現在存在するあらゆるハイブリッドの中でもっともスポーティで気持ちよく、ガソリンターボのMT車よりも、運転していて楽しいくらいだ。私がホンダ シビックを買うとしたら、間違いなくコレ、すなわち「e:HEV」である。
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執筆者
MJブロンディ(清水草一) - 1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
- <公開日>2022年8月31日
- <更新日>2022年8月31日